30歳の誕生日が近づき、想像もしていなかった地球規模のパンデミックが世の中を揺るがすことになって3か月が経ったある日、ノルウェーのヘンリエッテ・アルボンは監査役の職を辞して都会暮らしを離れ、アスリートとしての人生に賭けることを決心した。プロランナーとしての人生を展望しやすい環境にあったとは言える。何しろ、ヘンリエッテの夫は世界ランク3位のトレイルランナーで、障害物レース(OCR)では負け知らずの世界チャンピオンなのだから。ヘンリエッテには障害物レースで何度も表彰台に立ち、スカフェル スカイレースでの優勝経験もあったので、それまでのように仕事に縛られることがなくなれば何とかやっていける自信はあった。「外に出て山の中で体を動かしているときのほうが、はるかに人生が充実しているように感じたわ。夫はそんな夢を自ら生きている。そう感じていたの。もし一緒にその夢を生きることができたなら、可能性は無限に広がるだろうと。リスクを伴う選択だったけど、うまく行かなければいつでも監査役の仕事に戻れるから。」 ただ、夫婦でレースからレースへと旅をして回る夢に見ていた夏は、思い描いていた通りにはやって来なかった。新型コロナウイルス感染症の影響で、レースのほとんどが中止になったのだ。アルボンはロムスダールへの移住を決める。そこは人里離れた奥深い自然に囲まれた山の多い場所で、エクストリームなマウンテンランナーが多く住む、トレーニングには絶好の地。「アウトドアに身を置くと、それが本来人間が居るべき場所であると感じるの」。それからの彼女は最速走破記録をいくつも積み上げていく。定められたルートを独りで走り、GPSでタイムを計測。これまでのノルウェー横断のランやノルウェーのハイルート スキーの最速走破記録(FKT)に挑みながら駆け巡っている。ヘンリエッテと夫のジョンは、自らが実験台となって自分たちが開発したトレーニングアプリのテストを重ねている。季節を超えてスキー登山やランニングを楽しみながら。
実績
- スキー登山のノルウェーチャンピオン
- スキー登山の世界選手権でノルウェー代表に選出(2022年)
- サロモン ウルトラピリヌー トレイル(100km)で4位(2021年)
- UTMB OCC(55km)で6位(2021年)
- Fjallmaratonveckan Arefjallen(46km)で4位(2021年)
- FKT(最速走破記録)ノルウェー横断ラン(120km)(2020年)
- FKT(最速走破記録)ノルウェーの「ハイルート」スキー(2020年)
- ムーンバレー ランフェスティバル(26km)で2位(2020年)
- Blefjells Beste ハーフマラソン(20km)で2位(2020年)
- ストランダ・フィヨルド・トレイル・レースで2位(2019年)
- スカフェル スカイレース優勝(2018年)